アトピー性皮膚炎の新規抗体療法の開発―皮膚炎症と痒みの同時制御に成功―

アトピー性皮膚炎の新規抗体療法の開発
発表日時 365体育app6年1月5日(金)13:30~14:25
場所 生涯研修センター研修室
発表者 本学医学部 解剖学第二講座 教授 森川吉博、准教授 小森忠祐
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ポイント
  • アトピー性皮膚炎は増悪と緩解を繰り返す掻痒を伴う湿疹病変であり、掻痒はしばしば激烈となり、睡眠が妨げられるなどquality of life (QOL)を著しく損なうのみならず、顔面や頸部に好発する湿疹は社会生活に支障をきたすことも少なくない。
  • アトピー性皮膚炎の有効な治療薬として用いられるステロイドは、皮膚の炎症には効果を発揮するが、掻痒には直接的な抑制効果はなく、掻痒軽減のために用いられる抗ヒスタミン剤や抗アレルギー薬は重症患者の激しい掻痒にはほとんど効果がない。
  • アトピー性皮膚炎関連のサイトカインであるオンコスタチンMは、IL-31と同様にアトピー性皮膚炎を増悪させた。
  • オンコスタチンMとIL-31の共通の受容体サブユニットであるオンコスタチンM受容体βに対する抗体は両方のシグナル伝達をブロックした。
  • アトピー性皮膚炎モデルマウスに抗オンコスタチンM受容体β抗体を投与すると、皮膚の炎症と搔痒の同時抑制により、著明な治療効果が明らかとなった。
1.背景

 アトピー性皮膚炎は、激しい痒みと湿疹性皮膚病変を特徴とする。激しい痒みに反応して掻く行動は皮膚病変を悪化させ、それがさらなる痒みと掻きたくなる衝動を誘発する(「痒み-掻破サイクル」)。また、激烈な掻痒のために睡眠が妨げられるなどquality of life(QOL)を著しく損なうのみならず、顔面や頸部に好発する湿疹は社会生活に支障をきたすことも少なくない。 抗ヒスタミン薬は「「痒み-掻破サイクル」を断ち切るために一般的に処方されているが、掻痒症の緩和やアトピー性皮膚炎の臨床症状および徴候の改善に有効であるという確かな証拠はない。 アトピー性皮膚炎の皮膚病変に対する従来の抗炎症療法としては、コルチコステロイドおよびシクロスポリンが有効であると報告されている。
しかし、副作用や長期使用に伴う潜在的な毒性から、アトピー性皮膚炎の病態に特定の経路を標的とした代替療法の開発が必要である。アトピー性皮膚炎関連サイトカインの1つであるインターロイキン-31(IL-31)は、アトピー性皮膚炎の掻痒症や皮膚病変の発症に重要であるが、IL-31シグナルを遮断してもアトピー性皮膚炎の皮膚病変は改善しない。IL-6ファミリーのサイトカインであるオンコスタチンM(OSM)は、OSMとIL-31の共通受容体サブユニットであるOSM受容体βサブユニット(OSMRβ)を介して、様々な炎症反応の制御に重要な役割を果たしており、アトピー性皮膚炎患者の皮膚病変では、OSMとOSMRβの発現が増加しているが、アトピー性皮膚炎の病態におけるそれらの役割については不明である。今回、我々はアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて、アトピー性皮膚炎の病態に対するOSMの役割を検討し、OSMRβに対するモノクローナル抗体が著名な治療効果をもつことを見出した。

2.研究成果

 今回の研究では、アトピー性皮膚炎モデルマウスにOSMを投与すると、皮膚病変が増悪し、リンパ節でのIL-4産生が増加した。 次に、OSMRβに対するモノクローナル抗体(mAb)がアトピー性皮膚炎の病態に及ぼす影響を調べた。 抗OSMRβ mAb(7D2)を投与すると、アトピー性皮膚炎モデルマウスの背中(back)、耳介(ear)、および顔(face)の皮膚炎が改善した(下図左)。 皮膚病変に加えて、アトピー性皮膚炎モデルマウスの後根神経節におけるOSMRβ陽性ニューロン数の減少に伴い、掻破行動も7D2 mAbによって減少した(下図右)。 また、7D2 mAbは、アトピー性皮膚炎モデルマウスのリンパ節におけるIL-4、IL-13、IgEの血清濃度とIL-4、IL-13の遺伝子発現を低下させた。 IL-31とOSMシグナルの両方を遮断することで、掻痒症とTh2反応の両方が抑制され、その結果、アトピー性皮膚炎の皮膚病変が改善することが示唆された。これらの結果から、抗OSMRβ mAbはアトピー性皮膚炎治療の新たな候補となりうるという知見を得た。

下図

The FASEB Journal. 2024, 38(1):e23359より引用

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3.今後の展開

 今回の研究で、抗OSMRβ抗体はアトピー性皮膚炎の治療に非常に有効であることが判明した。したがって、本抗OSMRβ抗体と同様のエピトープ特異性を有するヒト用抗体が今後の研究により開発されれば、治療的および予防的な臨床応用が大いに期待される。

4.用語説明
  • サイトカイン:サイトカインは、種々の細胞から分泌される低分子のタンパク質で、生理活性物質の総称。種々の細胞間の相互作用に関与し、周囲の細胞に影響を与える。
  • インターロイキン:主に白血球間の相互作用に関与するサイトカインで、現在インターロイキン-1からインターロイキン41まで報告されている。その中で、インターロイキン-4、-13、-31は特にアトピー性皮膚炎の発症?増悪に関連していると考えられている。
  • オンコスタチンM:インターロイキン-6ファミリーのサイトカインの一つで、種々の炎症性疾患や癌などの病態に関与する。
  • IgE:免疫グロブリン(抗体)の一種。原因物質(アレルゲン)と結合し、I型アレルギーを起こす。正常では、血中には微量にしか存在せず、アトピー性疾患では上昇する。
5.発表雑誌

Tadasuke Komori, Tomoko Hisaoka, Ayumi Kotaki, Miki Iwamoto, Atsushi Miyajima, Eiji Esashi, Yoshihiro Morikawa.
“Blockade of OSMRβ signaling ameliorates skin lesions in a mouse model of human atopic dermatitis”
The FASEB Journal. 2024, 38(1): e23359; https://doi.org/10.1096/fj.202301529R

6.本論文著者

和歌山県立医科大学 医学部 解剖学第二講座  小森忠祐,久岡朋子,森川吉博
海南医療センター 小児科  岩本美紀
ギンコバイオメディカル研究所  小瀧歩、江指永二
東京大学 定量生命科学研究所   宮島篤

7.お問合せ先

<研究に関すること>
和歌山県立医科大学 医学部 解剖学第二講座
教授 森川吉博(モリカワヨシヒロ)

<取材に関すること>
和歌山県立医科大学 事務局広報室

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